「GHQ焚書図書開封」

日本保守界の大御所ともいうべき西尾幹二氏が今年五冊の本を出版した。「年に五冊も出版したのは、生まれて初めて」と本人は言っています。著述業のまねごとみたいなことをしている私にとって、年に五冊の本を出版するなどとても想像もつかないことをやってのけています。西尾氏は、その他毎月のようにどこかの月刊誌に投稿、その他テレビ出演、講演などと73歳とはとてもおもえないほど精力的に活躍しています。
その五冊の本の中で「GHQ焚書図書開封」(徳間書店)は、日本国民必読の本ではないかと思っています。焚書坑儒(ふんしょこうじゅ)と言う言葉があります。昔の中国、秦の始皇帝が儒教の書物を焼き捨て儒者たちを穴の中に埋めて殺してしまった有名な事件がありました。この事件から「焚書」と言う言葉が生まれました。要するに出版されている書物を廃棄して国民に読ませなくしてしまうことです。
日本の敗戦後、GHQ(アメリカの日本占領軍)は、日本人学者を殺してはいませんが、この焚書を行っています。GHQが徹底した検閲を行ったことはよく知られています。拙著「逆境に生きた日本人」(展転社)の中でその検閲の実態の概略を述べています。ところが焚書についてはあまりよく知られていません。
検閲と焚書を実行するということは、民主主義政治では絶対に行ってはならない政策です。独裁者や共産主義政治制度で初めて行える政策です。そのうえGHQは、占領中には占領国の憲法を作ってはいけないという国際条約に違反して憲法まで作っているのです。GHQは、日本に民主主義制度を根付かせたなどと主張していますが、実際にはGHQは、やりたいほうだい政策を実行したのです。
焚書には膨大な作業が必要です。焚書のことをGHQは、英語でConfiscation、没収という言葉を使用しています。没収本の対象期間は、昭和3年1月1日から昭和20年9月2日までです。その間に出版された全刊行物は、221,723冊もあります。
この中からGHQは、日本国民に読ませたくない本を選び廃棄したのです。その選別作業は膨大です。どこがやったか。東大文学部が行っていたのです。西尾氏は、自分が学んだ東大文学部の大先輩の教授たち行っていたことを知って愕然としています。
この20万冊以上の本の中から9、288点の書物が選ばれました。さらに厳選され最終的に7、769点が没収指定対象本になりました。初めのうちは日本の警察が本の没収を行っていましたが、昭和23年6月を境に文部省にこの件の業務が受けつがれた。文部省次官通達が知事に対し警察と協力して行うことを指導し、知事は教育に関係のある市町村の有識者を選んで「没収官」に任命。ただしその際、現場の教師を任命からはずし、学校の図書からの没収を慎むよう細かい指示を出しています。
GHQのこの焚書行為について西尾氏は、本書の中でこう書いています。
「それにしても不思議なのは、個人の家庭や図書館からは没収してはいけない、学校の現場教師には知らせてはいけない、担当の関係者はあったことを第三者にいっさい口にしてはいけない、と書面で規定していますが、ただそれだけで、この秘密厳守に関して格別の罰則はありません。人の口に戸は立てられないはずです。それなのに日本社会は麻酔薬でしびれたように動かなくなり、60年間、自分の過去を封じる「焚書行為」の存在すらすっかり忘れてしまったのです。
人間性の不思議のせいでしょうか。日本の敗北感情が特殊であるせいでしょうか。アメリカ占領軍の心理的な罠のかけかたが巧みであったせいでしょうか。集団殺戮のようなことではなくたかが焚書行為だからでしょうか。軍国主義の本は悪魔の本だという逆宣伝に乗せられ、日本人自らが自分で自分を過剰にしばる自己規制に走ったからでしょうか。それが心の中に「禁忌」(タブー)をつくって、知らぬ間に、自分の歴史は自分の頭で屈託なく伸び伸び考えるという自由を失ってしまったのでしょうか」といろいろとその理由を詮索しています。
私は拙著「逆境に生きた日本人」で語っていますように、日本人は権力に極端に弱い。戦後の日本人は、この「焚書」だけでなくGHQのあらゆる政策に積極的に、卑屈なまでに従順に協力しています。
それでは没収された7、769点の本はどうなったかというと、そのほとんどパルプにされて日本の学童用の教科書に再生され、残りの一部がワシントン文書センター(Washington Document Center)に送られたと言われています。
実はこの本が出版される2、3ヶ月前に西尾氏が「GHQ焚書図書について」の講演を行いました。そこで私は大変興味ある話を聞かされました。
7、769点の本が処分されたわけですが、この中に一体どういう本があったのか、日本人として気になるところです。文部省に気骨ある日本人がいたのでしょう。文部省は、7、769点の明細、すなわち本のタイトル、作者名、出版社名を網羅しただけの本を発行しました。勿論GHQには、秘密だったと思います。もしGHQがこの本の出版を知っていたら間違いなく中止させたでしょう。彼らは日本国民に気づかれずに本を処分するのが目的だったからです。
西尾氏は、講演の途中で鎌倉市に住む一市井の人、Sさんを演台に呼び私たちに紹介しました。Sさんは、この7、769点のリストを網羅した本を手にいれました。それ以来Sさんは、10年以上という年月かけて私費でこれらの本を探しまわりました。神田の古本屋はむろんどこかへ出かける度にその近辺の古本屋や本屋を訪ねまわり没収された本を探しまわりました。
没収本も個人所有や図書館所有のものは没収を免れていますし、没収本ですから販売網に乗っている本は、お金が払われることなく無料で没収されます。本屋によってはただで没収されては叶わないと隠す書店もあったでしょう。従って時間とお金さえかければある程度集められるだろうとSさんは考えていました。
Sさんは、7、769点のうちなんと半分近く3千数百点の本を集め、自宅の書庫で保管しているのです。国会図書館にも数十冊ありますので、現在没収本、7、769点のうちおよそ半分近くの4千点弱の本が日本国内に現存していることになります。このSさんの日本に対する貢献は大変なものがあります。ある日本人学者がSさんと西尾氏との仲をとりもちこの本、「GHQ焚書図書開封」が生まれるきっかけになったのです。
西尾氏は、鎌倉のSさん宅に通いつめることになりました。Sさんが本の貸し出しをしないからです。Sさんに言わせると、全部の本がすべて70年前後前の本ですから完全に古本です。本の保存に気をくばっているSさんにしてみれば、とても貸し出しなどできません。その気持ちをわかってほしいと言っていました。
西尾氏は、これらの没収本に目を通し、その中で興味のあるものを読者に紹介してくれているのがこの本です。これは初巻目で3巻まで出版される予定です。2巻も今週ぐらいに発売予定です。初巻目のこの本は、初回なので全体の三分の一が焚書についての説明で後の三分の二が抜粋本の紹介です。いやぁー実に面白い。なぜGHQがこれらの本を没収したかわかるからです。
初巻の圧巻は、最終章で米国人、ブレーク・クラークという人が書いた「真珠湾」という本の紹介です。真珠湾攻撃が行われたのが昭和16年12月8日です。それが昭和18年4月に海軍大佐、広瀬彦太と言う人に翻訳された本が出版されているのです。翻訳ですから、アメリカ側の出版は当然それより前です。真珠湾攻撃後、わずか一年半ぐらいの期間で原作の出版と翻訳本が出版されたという驚きです。しかも戦争たけなわの時です。それだけ書いた方はすぐ出版したかったし、攻撃した日本側も早く翻訳本が欲しかったのでしょう。このアメリカ人が書いた「真珠湾」という本は、つぎのことを明快に示しています。
1.真珠湾攻撃をアメリカ側は、必ずしも奇襲と考えていなかった。
2.日本軍が海上に浮かぶ軍艦と飛行場を徹底的に叩いただけで民間人を襲撃していない。
3.日本軍隊の技術の高さ、訓練の見事さをほめている。
4.アメリカ人は、日本人を完全になめていた。
10数年前まだ私が現役で働いていた頃、私はアメリカ映画、「パールハーバー」を見た。その時日本機は、逃げ惑う一般市民に機銃操作を浴びせていました。そんなことはなかったと本で読んでいたので癪に障ったことを覚えています。ここにアメリカ側の記述でも一般市民への攻撃がなかったことが実証された。徹底的に無差別空爆を日本本土でくりかえしたアメリカ軍とは違うのです。
もうじき2巻目が出版されます。その予告目次をみますと、
一. 従軍作家の見たフィリピン戦場最前線
二. 「バターン死の行進」直前の状況証言
三. オランダのインドネシア侵略史(1)
四. オランダのインドネシア侵略史(2)
五. 日本軍仏印進駐の実際の情景
六. 日本軍仏印進駐下の狡猾惰弱なフランス人
七. 人権国家フランスの無慈悲なる人権侵害
八. アジア侵略の一全体像(1)
九. アジア侵略の一全体像(2)
十. 「太平洋侵略史」という六冊本シリーズ
十一. 大川周明「米英東亜侵略史」を読む
十二. 「米本土空襲」という本
目次だけでなぜGHQが没収本にしたか想像がつく本ばかりです。拙著「大東亜戦争は、アメリカが悪い」は日本国民必読の本と自負していますが、この西尾幹二氏の「GHQ焚書図書開封」もまさに日本国民必読の本だと思います。

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4 comments »

八目山人 より:
2008年12月14日 7:51 PM
インターネットが出来て簡単に事実を検索出来るようになり、よくなったという論が有ります。
それはその通りなのですが、グーグルで事実を調べようとしても、開戦時にフィリピンで収容された一般日本人女性が、大半レイプされていた事件や、内鮮一体化政策により、国が音頭をとって、朝鮮人男性に日本人女性を結婚させた事が、幾ら検索しても出てきません。
教科書裁判や創氏改名は、何十万件と出てきて、しかも95%以上が左翼の書いたものです。
このようにグーグル検索においても反日満載で、日本がやった善い事や、アメリカのやった悪い事は本当に0件しか出てきません。
日本人に問題があるのか、それともそれ以上に何か巧妙な仕掛けがあるのか。真実の歴史を取り戻すのはまだまだ先が永いと思います。

えんだんじ より:
2008年12月15日 2:48 PM
八目山人さん
コメントありがとうございます。欧米人は大東亜戦争
(太平洋戦争)は絶対に正義という思い込みがはげいしいせいもあるのではないでしょうか。

たつや より:
2008年12月15日 8:05 PM
1994年でしたか、零戦撃墜王・坂井三郎氏が外人記者クラブで話した時、
「日本は大東亜戦争で、白人支配をうち破ったのだ」
と言うと、外人記者達は悔しがったといいます。
「ナチス・ドイツのファシズムに対する民主主義・連合国の戦い」というプロパガンダを、
無理して「対日戦にも使いたが」りますよね。
東京裁判史観のまやかしを、
「GHQ焚書図書開封」で薄皮を剥ぐように暴いて行くのは、息の長い話と思います。
「この問題は、日本史・世界史の最大の課題だ」と、
小中学のうちから教えるべきです。

えんだんじ より:
2008年12月15日 8:45 PM
たつや様
コメント有難うございます。全くその通りです。日教組がいまだに支配している以上、なかなか難しいでしょうね。

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